箱根でピカソで家族。

今年最後の新作フルートたちを「仕上げ」ている日々が続いています。
「仕上げ」に近づくと、どうしても集中してしまいます。

そんなある日のある朝。

「箱根に行かない?」

という妻の提案がありました。
しかし、「仕上げ」の最終段階に差し掛かっており、
少しでも前へ進ませ、より高い完成度を追求したい気持ちがありました。

「紅葉見てないし。」

そうでした。紅葉好きな私が、今年はまともに紅葉を観ていませんでした。
外を見ると、澄みに澄んだ青い空。
家族でお出かけもしてないし、、、

「そうだね。じゃあ、行こうか。」

妻は私の答えをわかっていたのでしょうか、
昼食のお弁当の準備もしていました。
箱根は箱根でも、今回の目的地は「箱根彫刻の森美術館」。
紅葉も堪能で来て、子どもも楽しめる遊具も充実しているようです。
大磯から箱根は、案外近いです。電車でも1時間半くらいの小旅行。


家族大好きの妻と、電車大好きの息子。


箱根湯本駅からは箱根登山電車に乗り換えま~す。


やたらと多い吊革たち。どんな理由があるのでしょうか。

登山電車というだけあって、けっこうな標高まで登っていきます。
スイッチバック式でジグザグに進むのですが、
途中のスイッチバックする駅では運転士さんと車掌さんが歩いて入れ換わります。
スローライフですねえ。


そして、景色の良いポイントでは徐行運転をしてくれます。
ハートフルですねえ。

美術館の最寄り駅は、「彫刻の森駅」。
ズバリですねえ。

敷地面積7万平方メートルという広大な敷地に、
国内外の彫刻作品が広~い芝生の上に展示されています。

歩きながら、自然を感じながらの鑑賞はかしこまらず、
気持ちが良いですねえ。


美味しい昼食後に、ほっと一休み「ヘンリー・ムーアごっこ」

敷地の一番遠いところにある「ピカソ館」に入ってみる事に。

そういえば最近はゆっくり美術鑑賞なんてしていないなあ、なんて想っていたら、
「ゆっくり観てていいよ。私たちは外で待っているから。」

という妻の言葉。
じゃあ、ちょっとだけゆっくりと鑑賞させてもらう事に。

ここのピカソ館は絵画の他に、素描や陶芸作品などが数多く展示されており、
主に晩年の作品を中心に、ピカソという人を掘り下げて展示したような感じです。
写真家デヴィッド・ダグラス・ダンカンによる、
ピカソと妻ジャクリーヌの日常を映した写真たちがこれまた秀逸。
ピカソという人がただそこに生きていたというように、当たり前のように、小難しくなく。

作品に添えられたエピソードにも目を通しながら鑑賞していると、
心臓をえぐられるようなピカソの言葉に出逢いました。

『作品を仕上げる?なんて馬鹿げたことを!』
『一つのものを仕上げるとは、それを終えること、
それを破壊すること、それからその魂を奪い去ること、
闘牛場の牛みたいに、それに“とどめ”を刺すということだ』

この数日、制作中のフルートを「仕上げる」事ばかり考えていた自分に、
なんとも痛恨な一撃。

フルートは制作者の「作品」であると同時に、奏者の「道具」です。
そして更に、作曲者や指揮者が求める音楽に応えなければいけません。
もちろん私の中での「完成」はあるのでしょうが、
フルートの場合はその先が永い。ひたすら永く、遠い。
「完成」は無いに等しく、「仕上げる」なんて気持ちはもっての他なのかもしれません。

その場に立ち尽くす私。
すると、息子の声で、

「じっちゃんだ!」

息子の視線の先にあったのは、ダンカンの撮った陶芸作品を掲げるピカソ。


確かに親父幸一郎に似ている。

そういえば、親父は事あるごとに、
「俺は絵描きの延長で笛作りをやっているんだ。」
と言っています。

その言葉の奥には、筆を置く事の難しさを知る親父ならではの、
笛作りに対する心構えというか、信念のようなものがあるのでしょうか。

そんな事を想いながらピカソ館を後に、、、

ここからの時間は、
妻にはほんのひととき休んでもらって、
息子と一緒に遊ぶ時間♪

ここには鑑賞する彫刻作品だけでなく、
中に入って遊ぶ事の出来るプレイスカルプチャー(遊戯彫刻)という作品もあります。

こちらは、ネットの森。子ども専用。


妻好みの色彩~

色んな色に、ひもを編み込んで出来たネットの感触。
全身を使って想い想いに遊びまくる子どもたち。
奏輔もはしゃぎまくってます。
1人で遊んでいるのかと思いきや、
同じ年くらいの女の子に何やら何かの説明をしているらしいご様子。。。
どうやら、「ここは危ないから、気を付けるんだよ」的な事らしい。。
よくしゃべるなあ、、、
うーむ、、誰に似たんだろうか。

こちらは、シャボン玉のお城。こちらも子ども専用。


増殖しているらしいです。

一番上はけっこうな高さ。
さすがに一番上までは上がれませんでしたが、
これまた縦横無尽にはしゃいでおりました。

朝早く出てきたので、夕刻前に家路へと向かいました。
帰りの電車はさすがの息子も爆睡~

なんだか、家族サービスのつもりもあったのですが、
心のリフレッシュが出来た1日になりました。
新たな心で制作に臨めます。

妻に心から感謝です。

桜井秀峰

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ワークショップを工房で。

11月19日

台風か?というくらい強い風と大雨のなか、
小学生3人組と保護者のお母さまが大磯の湘南アトリエにやってきました。
皆さん吹奏楽部に所属していて、
それぞれフルート、ユーフォニウム、アルトサックスを演奏しているそうです。

せっかく来たのだからと、「竹の笛を作って演奏会をしよう」ミニワークショップを開催しました。
吹き口(歌口)はあらかじめ私が削って用意していたので、
みなさんには想い想いの場所に穴を開けたり、短くしてみたり。
自分オリジナルの笛が出来上がったところで、今度は演奏をしてみよう♪
じゃあ、「雨」をイメージした曲をみんなで作曲してみてくださーい!と、
結構無茶ぶりに近いようなリクエストにも、面白そう!と反応してくれたのは、
吹奏楽部で日々音楽に触れているからでしょうか。さすがです。
順調に作曲をしていたので、ここでまた更なるリクエスト。
演奏する場所と、聴く場所を考えてみよう!と思いがけない無茶ぶりにも、
真剣に、そして楽しそうに試行錯誤していました。

いよいよ曲が完成し、場所も決まったようで、
促されるまま我が家の縁側に窓の外を見て座りました。
外は雨。しばらく雨の音を聞いて意識が集中したころ、
徐に曲が始まりました。

今日のように激しい雨が続き、そして一瞬雨が上がり、また降り続くーーーーー

正味15秒ほどの短い曲ですが、中身の濃い仕上がりになりました。
恐らく普段は指定の多い曲を演奏している事と想いますが、
今日のように音楽には自由な要素もあるんだなあ、と感じてもらえたら嬉しいです。

その後は、お持ちの他社製フルートを調整をしているあいだ木製フルート等の試奏や、
楽器の部品などの説明をさせていただきました。
さながら、ミニ工場見学といったところでしょうか。
そのうち我が息子(2歳)が愛用のおもちゃで猛アピールするので、
最後にはみなさんも一緒になって遊んでもらいました。

調整も完了しましたので、さっそく試奏していただきました。
その違いにびっくりされたご様子。
楽器の中でもとりわけ調整が最重要なのがフルートです。
これからはこまめに調整にお出しくださいね。

外は変わらずの雨。
足元悪い中お越しいただき、本当にありがとうございました♪
久しぶりのワークショップでしたが、とても楽しかったです。
制作だけでは得られない体験がワークショップにはあります。
やっぱりイイなあ。
近い将来、工房主催で開催してみようかなあ。

桜井秀峰

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あなたと私

先週末、私たちのウェブサイトを制作してくれたAtsushiとOginの結婚式がありました。
場所は大磯の海からも見える葉山。良い町です。
大好きな町で大好きな友達が永遠の愛を誓う。
なんてステキな事なのでしょうか。

ウェブサイト制作を引き受けていただいた彼らのために何か出来ないかと考えた私たちは、
2人にとって、もっとも大切で最重要な「結婚指輪」を制作させていただく事になりました。
なんとステキな事なのでしょうか。

材質は永遠の輝きを誇るプラチナ製という希望以外は、
「デザイン等はお任せします」
という、ある意味超絶プレッシャーの要望。
「任せてください。」
と言ったその日から、私たちは彼らの為の「マリッジリングデザイナー」になりました。

どんなデザインにしようか、石を入れようかなどなど、
考えれば考えるほど想い悩みます。。。
凝れば凝るほど、何か遠くなってくる想い、、、
「シンプル」という言葉がアタマを巡ってはいたものの、
「シンプル」に込められた果てしない意味の波にのまれました。

そんな時、自分達が制作したフルートたちを見つめてみました。
1本1本に想いが込められた楽器たち。
そして、奏者から想われている楽器たち。
私たちが持っている技術と想いが形になっていました。

フルート職人が考え、想い、デザインしたリング。
それは、私たちが自信を持って想いを込められるデザイン。
私たちにとっての「シンプル」です。

これが私たちが彼らを想いデザインしたマリッジリングです。

「唐草模様」の手彫りです。
金属製フルートの胴輪にも施している私たちにとっては馴染み深い彫りです。
普段と違うデザインではなく、いつも彫っているデザインです。
彫りは深く、見る角度によって明瞭な陰影を映し出しています。
石を入れなくてもキラキラしているので、とっても綺麗です。

今回は、荒仕上げまでは私たちが手がけて、
最終の仕上げを彫金の師匠にお願いしました。
江戸下町の職人中の職人でもある師匠は、御年73歳。
師匠の作品を一つでも多く残したい想いもあり、お願いしました。
絶品です。

そして、リングの内側に入れた文字。
Atsushiのリングには「O&A」
Oginのリングには「A&O」

私とあなたではなく、
「あなたと私」
いつも相手を先に想い合えるように。

彼らと出逢えた事を本当に嬉しく想っています。
ありがとう。
そして、結婚おめでとう!!
これからも末永~~くお幸せにね!!

桜井秀峰

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大磯吉祥寺銀座、そしてフルート

秋深まる中、久しぶりに吉祥寺シアターに行ってきました。
大磯から遠路はるばる小旅行。

私が末席ながら所属している劇団「青年団」のソウル市民五部作!!!!!の仕込み初日。
3年前だったら、舞台セットを仕込んでいただろう私ですが、
今回は劇中で生演奏される足踏み式オルガン(リードオルガン)の調整。
調整といっても本格的な修理などではなく、定期的なメンテナンス程度でしたので、
まったく問題ありませんでした。

今回の代表演目「ソウル市民」は、平田オリザ初期の作品です。
オリザ作品の中でも、もっとも人気のある演目のひとつです。
私もとても好きな作品なので、何度も観ています。
何度観ても面白い、「強度」を持った作品です。

「ソウル市民」が描いた1909年。
その10年後が「ソウル市民1919」
それから10年後の「ソウル市民昭和望郷編」
でもって10年後の「ソウル市民1939恋愛二重奏」(新作)
さらに地球の裏側の1939年「サンパウロ市民」(新作)
劇団史上、五部作連続上演なんてありません。
日本の演劇史で語り継がれる”伝説”になるでしょう。

どこから観ようか悩みますね~。
年代を辿るか、遡るか。
はたまた真ん中から観るか。
どこから観ても楽しめるのは間違いないです。

本公演の特設ウェブサイトに公演の詳細がありますので是非ご覧ください。
ソウル市民五部作特設サイト

久しぶりに会う団員のみんなは相変わらず。
こんな私を笑顔で迎えてくれます。
そこが、また嬉しいです。
山内さん、呑みに行きましょうね!!

オルガン調整も無事に終わったので、
舞台美術の杉山至さん達と昼食に。
至さんは私にとって非常に重要な人。
私が一時離れた演劇の世界に引き戻してくれたり、
建築家の丸山欣也さんと引き合わせてくれたり、
笛のワークショップのきっかけを与えてくれたりと、
今の自分があるのはこの人がいたからと言っても過言ではないでしょう。
とにかく仕事に厳しい。
それは時に、強い言葉になったりはしますが、
自分の仕事に対して全身全霊で臨んでいるからこそ。
つい数年前までは、何度怒鳴られた事か・・・。(遠い目)
でもですね。その熱意っていうか、覚悟ていうか、
命賭けてる!って姿勢がヒシヒシ伝わってきて、
自分の甘さを痛感してばかりでした。

舞台美術の世界観も圧倒的。
丸山欣也門下生でもある至さんは、丸山エキスを注入されただけあって、
これでもか!!ってくらいの傍若無人っぷりです。良い意味ですよ。
正直、舞台美術で感動したのは島次郎さんと至さんだけかなあ。

相変わらずの極忙ぶりなようで体調が心配ですが、
ピリピリした仕込みっぷりを見られて嬉しかったです。

熱い吉祥寺を後にして昔からお付き合いさせていただいている、
都内の楽器店にご挨拶に寄らせていただきました。
新大久保のDACさんに伺ってから、銀座の山野楽器さん
今の傾向や楽器店からの要望など、とても為になるお話を伺いました。
あらゆるメーカーのフルートを目にすると「俺もやるぞ~!」ってなりますね。
大手であろうが、個人工房であろうが、フルートを作る職人はフルートが好き。
演奏が好きな職人もいれば、フルートという楽器が好きな職人もいます。
私はどっちかなあ。演奏は拙いですが好きだし、楽器自体も大好きだなあ。
親父と叔父は演奏はしませんが、仕事がとにかく好きですね。あ、おしゃべりも。

日本のフルートは世界一です。
生産量もそうですし、主要なオーケストラの90%は日本製ではないでしょうか。

これからもそうあり続ける事が出来るよう、
私は私の仕事に誇りをもって、全力で臨むだけです。

うす暗くなった銀座の街を歩きながら、
結局はフルートの事ばかり考えていました。

桜井秀峰

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コルクと9。

コルクというと、「ワインの栓」と思い浮かべる人がほとんどでしょう。
実際、産出されるコルクの8割以上がワインの栓だそうです。
そのコルクの産地はポルトガルが約50%。次いで、スペインが約30%。
前回に引き続き、ここでもスペインが活躍しています。

そんなコルクはフルートを始め、木管楽器の各所にも使われており、
非常に重要な素材のひとつです。

実はこのコルク、ブナ科のコルク樫という木の樹皮を剥いだものなんです。
えー!皮を剥いじゃうの?って思った方、ご安心ください。
剥いでもまた皮が付いてきます。
それを何度も何度も繰り返す事が出来るのですが、
その周期が9年と定められています。
ある程度の厚みになるまでに時間がかかるのでしょうが、
8年でもなく、10年でもなく、9年。
詳しくはこちらのサイトをご覧ください。コルクについて、とっても詳しく載っています。
東亜コルク株式会社
でも、なぜ9年なのでしょう。

そういえば、9という数字。いろいろなところで活躍しています。
例えば、
・ビリヤードの「ナイン(9)ボール」
・野球チームの選手数
・日本国憲法 第九条「戦争の放棄」
・ベートーヴェン作曲「交響曲第9番」
・ドヴォルザーク作曲「交響曲第9番新世界より」
・ブルックナー作曲「交響曲第9番」未完成と言われていますが、、
・中国の占い「九星」
・インドの占星術「九曜」
・芸能人の登竜門「月9」

他にもいっぱいありそうです。
そういえば、昔学校の校庭に机を「9」に並べた事件がありましたね。
9という数字には、何か惹かれるものがあるのでしょうか。

話しはコルクの話題に戻って、、、
先日、コルクの在庫を補充しようと思い、
40年以上お世話になっているコルク屋さん(東亜コルクではありません)に連絡をいたしました。
いつもと変わらない元気な声!
日本中の楽器メーカーがこの方のお世話になっているといっても過言ではないのですが、
私たちのような小さな工房にも良いモノを分けていただいています。

何でも、今年はコルクの入荷状況が悪かったようですが、
そこはコルク界の重鎮だけあって、少ないながらも良質なコルクを入荷しているそうです。
天候不順とかではなく、現地で働いている方たちの問題らしく、
じきに解決するから大丈夫だよ、との事でした。
上記リンク先にあるように、剥がすのも大変な重労働なようです。

送られてきたコルクは、いつも通り上質でまったく問題ありません。

頭部管のヘッドコルク。とっても綺麗です。
☆フルート奏者の皆さん。ヘッドコルクは緩んでいませんか??
意外とこのコルクの締め具合は音色にも影響が大きいです。
ヘッドキャップ(クラウン)がくるくる回ってしまうようですと、コルクの弾力が弱っている証拠です。

いつものようにコルクの切れ端をおまけしていただきました。
製品にはならないサイズですが、様々な楽器を手掛ける私たちにとっては必要な素材です。
もう本当に小さい欠片のようなものでも、それを集めて圧縮すれば再利用可能です。
捨てるところのないコルクは、かなりの「エコ素材」だと思います。

長年お世話になっているコルク屋さん。
直接お邪魔する時は、お仕事の邪魔をしながらいろんなお話を伺っていました。
ここにも命がけで自分の仕事”コルク”と向き合っている先輩がいらっしゃいます。
改めて”コルク”の良さ、奥深さを感じました。

桜井秀峰

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