先人の仕事を目の当たりにした時、
いかに自分がまだまだ甘ちゃんで足元にも及ばないかを痛感します。
先日お越しいただいた奏者が持って来られた、1920年頃に制作されたフルート。
その名はヘインズフルート。大巨匠J.P.ランパルが生涯使い続けた事でも有名です。
100年近く経っているので各所に摩耗などはあるものの、大きな支障ではありませんでした。
元々の作りがしっかりしていて、楽器の基本設計(形・音色・思想)も確固としています。
今のようなコンピュータ制御の機械などあろうはずもなく、ひたすら手を動かし続け、
さまざまなアイディアを生み出しながら、制作されていたのでしょう。
まさに命がけでフルートを制作していた時代。
これは直せる。そう想った瞬間、
「私はまだ歌いたいんだ!」
そんな言葉を聴いた気がしました。
この楽器を吹いていた奏者が楽器に託した情熱なのでしょうか。
はたまた作り手の命がけな想いなのでしょうか。
摩耗したところの細かい部品は同じ材質、同じデザインで作り直します。
細かいところを直しながら、この楽器の本質を探る事が重要です。
自分勝手に弄る事ではなく、この楽器の本質を見極め、
修理・修復の方向性を決めていきます。
それには、楽器に”本質”が備わっている事が大前提です。
魂の入った楽器であれば、いくら摩耗していても直せます。
というか、直したいという気持ちにさせられます。
それも私たちにとって大切な仕事です。
私たちの制作した楽器たちも、いつかは摩耗していきます。
その時に未来の職人たちが「直したい!」という気持ちになってくれるような、
そんな楽器を作りたいと切に想っています。
桜井秀峰