のストーリー

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主人公

使用楽器:本黒檀モデル (オフセットリング、C管、Eメカ)

フルート歴:約35年 (ブランク10年)

主な演奏場所:アマチュアオーケストラ (横浜シティ・シンフォニエッタ)

2002年頃、表現の幅を広げるために古典的な演奏を試していたのですが、いつしかのめり込むようになり、木管フルートへの興味が湧いてきて都内のショップ等を見て回っていました。その時にサクライの木管を見て、思いきって工房まで行ってみる事にしたのが最初です。

思いのほか温かく迎えていただいたのですが、幸一郎さんの長い長いお話には驚きました。非常に興味深い内容でしたが、いったいいつ終わるのだろうと…。しかし、一気にフルートの知識が深まったのも事実です。中でも、木管フルートを作る為に木材を長年寝かしている事にとても驚きました。大変な時間と手間をかけて1本の木管フルートが作られているとは、想像以上でした。新参のメーカーが急に良いものを作れるものでもなさそうだし、大量生産にも向かないのだなと。

午前中からお邪魔して夕方までずっとお話を伺っていたのですが、最後の最後にデモ用に制作されたという「本黒檀フルート」を出してくださいました。1998年製との事で、約4年吹き込まれている楽器でした。試奏してみると、とても素晴らしく「ぜひこの本黒檀製を。」とお願いしていました。 私の元へやってきた「本黒檀製」ですが、今まで金属管で吹いてきて感じた事のない「笛が歌ってくれている」という体験をさせてくれました。 その後、木管フルートを通じて思いがけない出会いがありました。ピリオド系楽器での演奏が好きな指揮者と知り合う事ができ、彼が代表も務めるオーケストラに所属する事になったのです。彼は私に新しい挑戦を与えてくれました。 オーケストラに持参すると「うわ!何ですかその黒い笛は?」と言わる事もしばしば。他のパートには「フルート=金属」がある意味当たり前なのでしょう。

改めてホールで吹いてみると、自分では大きな音がしていないと思っていても 遠く隅々まで響いているようです。 古典は本黒檀製、近代以降は他社の銀製と使い分けていたのですが、だんだんと何でも本黒檀製で吹くようになってきました。「古典=木管」という当初の考えはもはや無いに等しくなりました。

最近は仕事が忙しく、週末しかフルートを吹く事が出来なくなりました。しかし、私にとってフルートの無い人生は考えられません。私のサクライフルート本黒檀製でハイドンの交響曲を全曲(約100曲)制覇するのが夢です。かなり難しいとは思いますが、素晴らしい笛を作り続けてきた桜井さんの想いが宿った本黒檀製なら夢で終わらないと信じて吹き続けていきます。

これからも良い笛を作り続けてください。

 

「経験が形になる」

桜井秀峰

私たちが本黒檀に抱いている想いは、特別なものがあります。希少な材という事もあり、初めて本黒檀でフルートを制作した時は本当に身が引き締まる想いでした。管体の厚み、接続部の形状、トーンホール、オイルの種類などなど、吟味しなければならないところは無数にありました。それまでに黒檀、青黒檀、縞黒檀、グラナディラなどで制作した経験を最大限活かし、本黒檀製を完成させました。その後、自分達の為に制作したのがこの本黒檀です。自ら息を入れる事によって得られる経験は、とても有意義なものです。

4年くらい息を入れ続け「いよいよ本格的に鳴り始めたな」と感じていた頃に工房に来られました。それまでも、何度となく別の方のところへ行ってしまいそうな事はありましたが、その度にかわしてこの日を迎えました。この方と演奏する日を待っていたのかもしれません。

定期的なメンテナンスを欠かさずしていただいているので、経年変化をリアルタイムで感じる事が出来ます。これは楽器にとっても私たちにとっても非常に重要な事です。この本黒檀をより良い状態に保ち、さらに成長を促す事をサポート出来ます。そして、この経験が次の作品たちに大いに活かされています。

完成から10年が経ちましたが、今がすべての要素において安定した最良の状態だと言えるでしょう。 本黒檀はこれからもっと飛躍します。

 

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