のストーリー

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主人公

仕様楽器:キングウッド製

フルート歴:15年

主な演奏場所:アンサンブル、自宅

今までに、楽器店やフルートフェスティバルなどでグラナディラ素材のフルートはよく見かけて試奏することもありました。木管へのあこがれもあり「いつかは1本!」と思い描いていました。元々、古楽が好きでしたのでトラヴェルソに興味はありましたが、今のフルートも満足に吹けないのに無理だよなあ、と思っていました。でも、「木はいいナァ!」とずっと思っていました。フルートは木管楽器なのだから、という単純な思いもあったかもしれません。

桜井さんが作られた木管と出逢ったのは、工房に初めてお邪魔した時です。その時は、総銀製をお願いしたのですが、本当は木管にも興味がありました。長年吹き込んでありそうな「縞黒檀製」を吹いた第一音は、理想とは程遠いものでした…。でも、手にとった時に感じたしっくりと手に馴染む感覚が忘れられず、やっぱり良いなァ、いつかもっと上手くなって、吹きこなしてみたいなァ、と思っていました。それから1年後、総銀製を手にしました。まずは総銀製で良い音を出せるようになろう!という気持ちで毎日毎日練習していました。

総銀製を吹いて1年が過ぎてやっと楽器に慣れてきたかなあ、と思った頃に調整に伺いました。その時に、私の前にキングウッド製が現れたのです。工房には何度か調整に伺っていて、軒先でシートを被っていたのや、木材を切り出しているのを見せていただいていたキングウッド。あれがこうなった?!という感動がわいてきて吹かせていただいたのを憶えています。(実際には、その材料よりももっと前に仕入れた材料だと聞きました)

そのキングウッドは、「出来たて」の「生まれたて」でまだまだ若く、私もどう吹いていいやらと思いましたが、やっぱり手に持った感触が本当に良くてこのまま連れて帰りたくなりました。桜井さんがこの楽器に特別な想いを抱いているのを感じましたが、「必ず迎えに来るのでとっておいてください」とお願いしました。桜井さんには笑顔で「どうぞ。」と言っていただきホッとしました。3カ月後、ボーナスを手に引き取りに行きました。

念願が叶って我が家に来たキングウッドですが、初めはとても気をつかいました。吹き込み過ぎないように、優しく接していました。すぐに木管で良い音を出そうなんて贅沢過ぎると思っていたので、ゆっくりとですが確実に前に進むように練習している毎日です。最近になって、総銀製と同じように自然体で吹けるようになってきました。そして、2本とも鳴ってきたと感じています。

キングウッドについては、まだまだわからないところが多く奥が深いです。これからも桜井さんに助けていただきながら一緒に育って行こうと思っています。

 

「太陽と月」

桜井秀峰

SP総銀製を制作させていただいた頃から「いつかは木管欲しいなあ」と小さめの言葉でおっしゃっていました。恐らくご自身のなかで「SPをもっと吹き込んでからが良い」と思っていたので、声を大にして言いにくかったのかもしれません。確かに、今の楽器を鳴らす時間が減ってしまうので一理ある事だと思います。しかし、その一理はすべての奏者に当てはまる事ではありません。事実、数年後に木管を手にしてから総銀製の音が飛躍的に良くなりました。ご自身も感じられていたようですし、仲間の皆さんからも言われたそうです。この方にとって、総銀製もキングウッド製も両方大切なパートナーだと改めて感じました。

木管キングウッド製との出会いも印象的でした。そのキングウッド製は数年に1本制作するかしないかという受注ではない「試作」的な作品。今までの木管の総括とこれからの木管への展望を込めて制作し「どうやって育てようか」と考えていた矢先に、総銀製の調整に訪れて出逢われました。いつものように家族のように和やかに談笑している時にキングウッド製をお見せすると「吹いてもいいですか?」と満面の笑顔。「もちろん良いですよ」の答えにさらに笑顔。楽器を眺めながら笑顔。組み立てながらも笑顔。さあ、いざ音を出そうとする直前まで笑顔でしたが、音を出した瞬間に表情が一変。何と言うか、一点を見つめるような眼差しというか。その後は時おり笑顔になりながら吹いていました。ぜひ感想をと思っていましたので「どんな感じですか?」とお聞きしたところ「必ず迎えに来るので預かっていて下さい」と笑顔で。思いもよらないお答えでしたが、すぐに私も快諾していました。しかし、あの眼差しが気になっていた私は感想をお聞きすると「これ、大事な木管ですよね。何となくそれがわかっちゃって…。」と。笑顔の裏には鋭い感性が宿っていらっしゃいました。でも、キングウッド製を手にする事への迷いは一切見えませんでした。その潔さが私にも伝わったのでしょう。気持ち良くお渡しする気持ちになっていました。3カ月後に迎えに来られるまで、毎日少しだけ息を入れていました。この3カ月間の息入れから得られた感覚的なデータが今の制作にも活かされています。

 

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