のストーリー

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主人公

使用楽器:本黒檀製(インラインリング・H足部管)

主な演奏場所:オーケストラ、吹奏楽

フルートを始めたばかりのころ、僕のフルートの先生が「珍しいメーカーの珍しい楽器が吹けるからおいでよ。」と言われ地元の楽器店で吹いてみたのがサクライの木管でした。最初の印象は、「木の楽器なのに、黒くない」でした。明るめのピンクに近い色をした木管を吹いてみると全く吹けない・・・。当時は何が良くて何が悪いかなんて全然わかってなかったと思います。

それから6年くらいは他社製の総銀フルートをメインに吹いていましたが、マニアックな嗜好になってき色々な楽器の試奏を繰り返していました。特に木管への興味は日に日に増していました。楽器店に展示されている木管やヴィンテージの木管を色々と吹いてみました。しかし、サクライ木管との最初の出会いが頭の隅から離れなかったので、制作所へ電話をかけたのが最初です。その時に応対してくれた秀峰さんと「フルートと楽器の在り方」について1時間以上話しをしたのを覚えています。その後に工房を訪ねて楽器を試奏し、そして時間を忘れるほどたくさんの話しをしました。

その後も幾度となくメールや電話で議論を交えたのですが、その受け答え全てに絶対の自信を持っている印象を持ちました。ここまで1本の楽器に徹底的にこだわり、奏者と制作者が議論を深められるのはサクライフルート以外に考えられなくなりました。

まずは、木である事が絶対条件として、自分の考える音楽とフルートについて率直に話し、「ではどんな木にするか」を入り口にキィの素材、その他細かい部分の材質、キィや歌口の形状をお互いに熟考して決めていきました。(レスポンスの早さと記録に残るメールを使えるというのは現代人の特権ですね。)

どの時点で楽器を注文したと感じるのかは、人それぞれだと思います。最初にサクライフルートを吹いたときから?制作所へ電話したときから?実際に制作所に行ったときから?フルートについて議論しだしたときから?

木管が完成して息を入れ続けていますが、率直に言ってなかなか言う事を聞いてくれません。ただ、良くも悪くも日々吹くたびに変化を続けている事は確かです。そして、楽器の中で何かが起こっているのは間違いありません。響きの渦が段々と広がっていく感じでしょうか。所属している楽団に持っていくと、「綺麗」とか「珍しい」という感想の他に、「意外に音が大きい」という反応もありました。

今までフルートを演奏してきて、「音楽を体験する感覚」を大切にしてきました。そうすると、他の楽器から見たフルートの在り方や、スコアの中でのフルートの役割を意識するようになります。ともすると、フルート奏者はエゴに駆られやすいところがあります。ソロも多いし、良くも悪くも煌びやかなイメージがありますので…。 そういった意味でも、桜井フルートは常にフルートと音楽を考えるきっかけを与えてくれます。それは楽器の反応がまるで「生きている」かのようだからだと思います。吹けば吹くほど面白く、反応に驚き、考え、苦労し、「底知れない」ものを感じます。

 

「生きている討論」

桜井秀峰

初めてのお電話でかなり深い「音楽」の話をさせていただきました。フルートの細部についてはもちろんですが、それらすべてが根底にある「音楽」に結び付いていらっしゃいます。少しでも気になった事や疑問は「鉄は熱いうちに打て」の如く、すぐに連絡がございました。私たちは問題を共有する事で答えを導くまでのプロセスをすり合わせ「共通言語」を生み出してきました。また、その議論は私にとって非常に有意義で、日々の制作意欲をより奮い立たせるものでした。

フルートを吹き始めた時から木管に興味があったようです。若い気勢というと、大音量だとか、テクニックに走りがちです。しかし、この方の気勢はあくまでも「音楽の中でのフルート」を最重要に考えて行動されてきました。辿りついた想いは「木管」。その結果、数年間は木管探しの旅をされていたようです。

ちなみに、この方が最初に出逢ったサクライの木管は「チューリップウッド製」。チューリップウッドでの制作はほとんどありませんので、その楽器に出逢っていらっしゃるというのも運命的なものを感じます。

議論の中で印象的だったのは、今まで見てきて吹いてきた楽器とは違う、新しくもあり先人達の魂も踏襲している「自分が本物だと思える楽器」を強く望んでいらっしゃるのを感じました。しかも、強烈に。

今でも議論は続いています。そのたびに私は深く考え、新しい道筋を探しています。それがとっても刺激的で楽しいのです。楽器が鳴り出したら、もっともっと面白い議論が出来るでしょう。それを今から心待ちにしています。

 

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