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主人公
使用楽器:GS洋銀製 カバードC足部管※頭部管は他社製
フルート暦:33年
主な演奏場所:フルートアンサンブル(育児休暇中)
2003年、地元にて開催されたフルートフェスティバルでサクライフルートに出会いました。試奏したフルートはイタリアの古いヴァイオリンのようなピュアで乾いた音を奏で、弱く吹いても良く鳴るし、強く吹いてもそのエネルギーを受けとめてくれるような豊かさを感じ感動した事を今でも鮮明に憶えています。すぐに楽器店を通じてGS洋銀製を注文しました。
1年と数カ月後に自分の手元に届いたGS洋銀製は、今まで見てきたフルートとは明らかに違い、とても美しい形をしていました。手にとると、作りもしっかりしているしメカニズムは滑らかに動くし、機能性は申し分ないと感じました。しかし、頭部管が試奏したタイプと違うようで自分ではうまく鳴らす事が出来ない・・・。仕方がないので、今まで使っていたフルートの頭部管をセットして吹いていました。
所属しているアンサンブルでサクライを披露すると、サクライに興味のある人たちが多くいる事がわかりました。都内の楽器店に並んでいる事も稀なので、初めて見るサクライを手にとって細かいところまでじっくり観察していました。頭部管は他社製ですが、低音から高音までコントロールしやすくなったのは楽器の精度によるところなのだと改めて感じました。事実として、メンテナンスも不要なくらいにこれと言った支障もなくフルートを吹いていました。
サクライを吹き始めて数年が経ち、私にも新しい家族が誕生する事となりアンサンブルにもたまにしか顔を出せずにいました。そんな時、仲間たちがまた一人また一人とサクライフルートを手にしているではありませんか!
しかも、工房に行って色々な楽器を試奏したり、作業の様子を見て話を聞いたりしているらしい。いつかは同行したいと思っていましたが、他社製の頭部管を使っているのが少々不安で(幸一郎さんに怒られると思っていました)なかなか行けませんでした。
そんな時、仲間の1人が「桜井さんは個々の要望に応じてあらゆる事に対応してくれる」と言うので、自分に合った頭部管でフルートを作ってもらえないかを直接聞いてみる事にしました。数週間後、少し緊張しながら工房を訪れると、幸一郎さんは不在でしたが、弟の清明さんと息子の秀峰さんが笑顔で出迎えてくれたので胸を撫で下ろしました。正直に今使っている楽器の事を話すと、私の要望に全力で応えようとしているのを感じ、もっと早く来れば良かったと思わずにいられませんでした。
秀峰さんに今使っている他社製の頭部管に慣れているので同じものを制作出来ないかお聞きしたところ、「良い結果にならない可能性が高いです。全く同じ(形状)に作ったとしても、微妙な違いで、全く同じ感覚は得られないからです。」とのお答えでした。
話の意図を完全に理解したわけではありませんが、私なりに演奏に置き換えて解釈すると「名手の真似をしても、似ても似つかない演奏になる事がしばしば。表面的な真似ではなく、その演奏(音)に至る過程が大事。」という事だと思いました。秀峰さんは私がどのように演奏するのかを観察しては、どんな音が出したいのか等を聞いてメモされていました。
2本目のフルートは「頭部管も洋銀製」と「Eメカニズムを付ける」という要望でしたが、桜井さんには快諾していただきました。歌口については仲間の1人が使っているフルートが私の要望に近いという事でしたので実際に吹いてみたところ、この方向で大きくは間違いないと感じました。
今回、直接お話をさせていただき試奏を繰り返す事で要望を理解していただきました。私にとってベストな形で注文が出来たと思います。遠くに住んでいると、なかなか簡単にはいかない事ですが・・・
ここ数年はフルートと離れがちになっていましたが、青春をともに歩んできていろいろな思い出もありやっぱり忘れられないと改めて思っています。将来、娘のためにもう1本サクライフルートを作っていただき一緒に演奏する事が夢です。これからも私たち家族の思い出作りの為にも相談にのっていただけたら最高です!
「探求から満足へ」
桜井秀峰
この方の「音」がきっかけで仲間の皆さんが工房に訪れるようになりました。皆さんが口をそろえて「とにかく音が綺麗」「フルートに対しての探究心が旺盛」「あの人がサクライは良いというなら間違いない」とおっしゃっていましたので、「どんな方なのだろう」と想像をめぐらせておりました。思い焦がれておりましたので、初めてお会いした時は本当に嬉しかったです。皆さんのおっしゃる通りフルートへの鋭い洞察力と深い愛情を感じ、「この人が納得する楽器を作りたい」と心から思いました。今お使いのフルートは頭部管が他社製ですが、ご本人にとって最良のパートナーとなっています。このままでも満足されておられますが、仲間の皆さんのように「私の為のフルート」を望んでおられました。しかし「他社製頭部管と同じものを」というリクエストに応じる事はとても難しいとお伝えしました。理由は2つあります。
1つ目は同じものを作ろうとサイズや形状を真似たとしても、ほんの微細な違いによって吹奏感は違います。ご本人はとても繊細な感性を持っておられるのでその違いは大きく感じ全く別物と思うでしょう。
そして、2つ目は私たち自身の問題です。「同じものを制作する」という到達点よりも「ご本人が納得する楽器を制作する」という気持ちで臨みたいと考えています。もちろん、サイズや形状は記録しますが、それを目指すのではなくお話を伺い、音を聴き「何を求めどこを目指しているのか」を探求し、そこから導いたものが同じ形になったと、私たちも納得したいというある意味自己満足な願望です。最後は「任せてください」とお願いして制作をお引き受けした次第です。
私たち自身の満足と奏者の満足にゴールは無いのかもしれませんが、最上の満足をいつも目指しています。